SF作家の新井素子氏が星新一の全作品の中から選びあげた選集です。
1000作品全てを読み直しその中から選んだ54作品。読み応えがあります。
新井素子さんは、奇想天外SF新人賞コンテストで「佳作」に選ばれ作家デビューしました。受賞作は「わたしの中の…」そして当時16歳。僕と同年代です。
この賞の選考にあたり、選考委員の小松左京や筒井康隆が猛烈に反対する中、ひとり星新一だけが、新井素子の才能を高く評価し、最後には2人もその熱意に折れ、新井素子の佳作が決定したというエピソードがあります。
「文章が新しい、作品の構成も一番しっかりしている。ようやく素晴らしい才能が現れた…」と高評価の星に対し、
筒井康隆は「マンガの吹き出しのようなセリフ…、本当にこれを入選させて、あちこちの作品依頼に応じさせていいと思いますか?」
「文章が幼くてかわいらしいのを、星さんは文章がいいと勘違いしてるんでしょ(笑)」
文体について「ぼくなんかには、とてもそういう表現はできない。」と星がいえば、
筒井は「あたりまえですよ(笑)。星さんがこんなの書き始めたら、気が狂ったかと思われる。(笑)」
小松左京にあっては「ぼくはあまり感心しなかった…、(文体について)やたらと抵抗がある…、こういう殴り書きみたいなやり方で小説を書き始めるのには疑問がある…」
と散々な言われようです。
とにかく、筒井康隆、小松左京ともこの作品については大反対だった。
とても有名な話ですね。
そしてデビュー後の新井素子の活躍はご存知のとおりです。
後年、筒井康隆氏は「星さんはどうしてあの時、新井素子の才能を見抜けたのだろうか。」と回想しています。
それにしても、この選考座談会の様子、意見のやりとりからも、3人はとても仲が良いのが分かります。
この本には各章のラストに「星くずのかご」というエッセイが載っています。
これは、「星新一作品集」の月報に書かれたもの(各巻の付録)ですが、全18巻全てを手にしてはいないので、ここで読めたことは有り難いことでした。
そのエッセイNo.4(P225)に気になる文がありました。
それは、「ノック」についてです。
本文からの抜粋
「ドアをノックするという行為というか約束事というか、いったい、いつ、どのようにして発生したのだろう…」
「トントンあるいはコツコツと2回やるのが特徴である。…」
「トイレのドアをトントントンと3回つづけてやったらどうだろう。非常事態発生かと、びっくりするのではないだろうか…」
というような内容です。
星氏はノックの回数について「日常の約束事」と捉えて様々な考えを巡らせていました。
僕はずーっとこのエッセイが気になり頭の隅に有ったのです。
近年、皆さんもご存知かと思いますが、テレビドラマ等では必ずノックは3回に変更されています。
ノックの回数には世界標準の回数が有るらしく、部屋に入る時は3回が正しいと、何かの番組で取り上げられてから以降は、「口裏を合わせたように」テレビでは全て3回になりました。
NHK朝ドラでも3回叩いたのには驚きました。だって明治時代のシーンなのに…あの頃は2回じゃないの。
僕はそんなテレビ局のやり方が気に入らない。
このノックの回数もそうですが、「食事前の合掌」も気に入らない。
日本人はいつから食事前に合掌をするようになったのか?
一般的には「いただきます」が標準だったと思います。
それがテレビ番組でみんながみんな合掌する姿を見せ、いつの間にか「日常の約束事」が変わってしまった。
食事前の「いただきます」は日本人の習慣です。良い伝統だと思います。
サザエさんを見たって、ちびまる子ちゃんのシーンだって食事前に合掌なんてしていないはず。
いつの間にかみんな「いただきます」を言いながら、インド人のように「合掌」をしてから食事をするようになってしまった。
伝統を力ずくで変えて良いのか。
テレビ局がその影響力を知ってか知らずか、伝統を塗り替える「洗脳」ともとれる行為を、公共の電波を使って流し続けていること。
僕には許せない。