できそこない博物館 星新一

本書には、未完成又は合格ラインに届かなかった作品、作品にならなかった物語のプロット、アイデアの断片やメモの数々が公開されている。

これらのものは本来「企業秘密」という奴で、もし、自宅が火事にでもなったら真っ先に持ち出すべき最重要機密書類だそうです。

1979年刊行
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その大切な小説のアイデアをエッセイの形で世に放出するという他に類のない書籍です。

これがアイディアの断片、メモの山のほんの一部です。

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「きまぐれ星からの伝言」より

そしてこの紙片の山(もっともっと有るそうです)をかき混ぜながら手に取っては放し、また次のメモを探る。

そして書き綴った小説「ノックの音が」の下書きです。(豆粒のような細かい字で書いてます)

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「きまぐれ星からの伝言」より

凄まじいというのが僕の感想です。毎回こうやって、命を削りながら書いてるんだ。
そして沢山の理知的でスマートなSF小説を作り上げてきたんだ。
こんな事していたら長生きできないよ。

すべて「ノックの音がした…」で始まる短編集がこうして練り上げられていきます。
完成したらこうなります。

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ショートショートの三要素
・新鮮なアイデア
・完全なプロット
・意外な結末

作品のアイデアを探すに当たってはこのメモの山をかき混ぜ、ひっくり返して、異質なものの融合を図るらしいのですが、長い作家生活の末、そのメモ類は膨大な量になってしまい、今後も使うことが無いと思えるその一部を公開したということらしい。

この沢山のメモの断片をくっつけたり離したり、異質なもの同士を結びつけ、全く新しいアイデアに仕上げる方法を星先生は「要素分解共鳴結合」と名付けました。化学だね。