あれこれ好奇心 星新一

小説をしばらく休むことにしたあと昭和59年(1984年)から60年の2年間に書かれたエッセイです。

1986年(昭和61年)初版
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星先生58歳の頃のエッセイですね。
小説をしばらく休むとしたのは、ショートショートを千編達成した時、そしてしばらくしてまた書き始めるわけです。

このエッセイには、家族とのハワイ旅行など数回の旅行に行ったことが書いてありますが、亡くなるのは1997年(70歳)ですから、元気に旅行などできたのは多分、10年間も無かったと思います。
最後の1年間は意識が戻らずだったといいます。
「命短し襷に長し」とはこのことか。

60歳を越えてから急激に老化が進んだと香代子夫人は言っていましたが、それは病が体内を蝕んでいたことももちろんあると思いますが、ショートショートを千編以上も書き上げるなと、凡人には成し得ないことを達成してしまったことにも原因が有るのかも知れません。

千編もの作品を残すという偉業はもしかしたら神の領域に踏み込んでしまったという事かも知れません。
本来、ひとりの作家が行うことではなかったのだろう。

晩年は昔の作品を見直し、時代に合わなくなった表現を書き直すなどの作業、そして新作は小説として成り立つ極限まで飾りの部分を削ぎ落とした作風に変わり、寓話的な作品に向かって行きました。

星先生は「ショートショートを千編書き上げたら、自分の中で何かが変わるかもしれない」と大変期待しておられたといいます。
しかし、現実は何も起こらなかったと。
ここにある種の失望があったかも知れません。

僕は、せめてこのタイミングで文学賞をあげられたらと。