今ではあまり見られなくなった函入りの単行本です。
そして、数少ない長編小説で、少年向けSF作品です。
この頃のSF作家は、子供向け作品を多く書いている印象があります。
新潮社で文庫化する際にタイトルを変えています。何故だろ?
ジュブナイルSFですが、この文庫本に昭和53年とあるので多分、高校生の頃に読んだのだと思います。
このブログでは、ネタばらし的な内容は書きませんが、この作品については、そもそも詳細を思い出せません。
読んだのが随分昔ですから。
ただ高校生の僕にも面白かったという記憶だけは残っています。
この作品に限らず、星新一作品は子供向け作品であってもおもしろい。読み応えがあるんです。
創作過程において、たぶん大人向け、子供向けという区別は無いんだと思います。
氏の作品の醍醐味は、アイデアと物語の構成にその妙がありますから、ハナから子供向けなどとは頭になく、組み上げたアイデアを、如何におもしろい小説に仕上げるか。
ただそれだけなんだと。
文庫版の解説は、眉村卓氏。
星新一氏と初めて会ったのは昭和36年とあり、僕が生まれた年です。
お二人とも既にお亡くなりになってしまいました。
日本SF界には、星新一氏の処女作「セキストラ」の発表に続き、小松左京、筒井康隆、眉村卓と若いユニークな才能が次々に集まりました。
星新一がビッグバンしたあとに、優れた才能がたくさん夜空の星々の如く輝きを増してゆく過程が、僕の成長と並行してあったんだなと、訳の分からない感動を覚えています。勝手に…
文庫本の良いところは、最後に必ず作家仲間の解説が載るところです。
著者のエピソードやあまり語られていない裏話が楽しみの一つでもあります。
眉村卓氏がある日、酒の勢いも有ってか調子に乗って、
「これからたくさんの作家がショートショートを書くようになったら、星さんがショートショートの代名詞ではなくなる時代がくるかも知れないですね」という意味のことを言ってしまった。
その瞬間の星さんの目を、僕は決して忘れないだろう。確かにギラリと光ったのだ。けれどそれは瞬時だけだった。
星さんは表情を変えず、普段の口調で「そのくらいなら死んだほうがましですよ」と応じたといいます。
星新一は、日本SFの第一人者、そしてショートショートの神様です。
作品は決してハードなSFではありません。
文章は易しく激しい描写もありません。
ついついSFであることを忘れてしまいがちですが、作品は様々なSF小説の形式で書かれていて、実験的小説も沢山あります。
「僕が星さんの本当の凄さを理解したのは30歳を過ぎてからです」とは筒井康隆氏の言葉です。