ノックの音が 星新一

「地球上で最後に残った男が、ただひとり部屋のなかにすわっていた。すると、ドアにノックの音が……」
という想像するとちょっと怖いはなし。
これはアメリカのSF作家フレデリック・ブラウンの「ノック」という短編の書き出し部分です。

1971年(昭和46年)初版
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このノックの主はいったい誰なのか。妖怪か、幽霊か、宇宙人なのか。
結局「地球上で最後に残った女」だったというオチなのですが、星はこの作品を読み、”ノックの音が…”で始まる短編シリーズを思いたったといいます。

”最後に残った女”というオチは、おもしろいことはおもしろいのですが、星先生ならもっと奇抜な結末をもってくるだろう。

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星新一の小説の主人公は、あまり広範囲には出歩きません。
本書「ノックの音が」が典型的で、物語は一部屋のなかで完結することが多いですね。

英訳版もあります。
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随筆集、きまぐれ博物誌・続(小松左京論)に次のような文があります。

1976年刊行(昭和51年)
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開高健が雑誌に「小松左京のユーモアは開放的であり、星新一のは閉鎖的である。」と書いていた。
なるほど簡潔にうまく指摘するものだなと感心した。

小松左京は「SFというものは、実に不思議な性格を持っている。いかなる分野とも接触できる」

そのころ私は、それと似て全く逆のことを考えていた。「あらゆる分野から一定の距離をおき、その影響から無縁で、超然としていられるのはSF以外にはないのではないか」

かくのごとく、小松氏とは考え方が逆で、作風の差異がある。

私は自己の小宇宙を構築するほうに熱心で、小松左京はその殻を破壊するほうに熱心である。

私の作品の主人公は出不精の性格である。小松左京の主人公たちはよく動く。移動距離の合計では、私とは比べものにならないほど多い。

登場人物だけでなく、小松本人もよく動く。毎週のように大阪から東京へ上京し、外国にもよく出かける。

文庫版
1972年(昭和47年)刊行
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