横田順彌と言えば、SF作家としてはハチャハチャSFとして名を馳せましたが、もう一つの顔は古典SF研究家です。
「日本SFこてん古典」は三冊上梓されました。
著者が、このちょっと変わったシリーズを思いついたのは、言葉の問題だったそうです。
当時、著者の周りにいたSF関係者はみんな外国語に強く、英語、ドイツ語、フランス語etc.
彼らは難なく外国の本を原文で読める。
しかし、自分は勉強をサボっていたため英語が苦手だという。
まだ翻訳されていない外国作品の話題で、彼らが盛り上がっているのをみると惨めな気持ちだったといいます。
そんなこともあり、外国作品の研究では彼らに太刀打ちできない。
まだあまり系統立てて研究の進んでいない「日本SF史」をまとめてみようと考えたのです。
ところがその分野では、既に40人程度は研究者がおり、自分よりも資料収集も進んでいて、自分には出る幕がない。
今から研究所しても、いずれ誰かが先に発表してしまうだろう。
そこで、その全貌ではなく、一部分ではあるが、誰かが発表する前に、誰よりも早く自分が、その中の珍しい「日本古典SF」だけでも紹介してしまおう。
と、まぁ、そんな具合にこのシリーズを始めたそうです。
本格的な日本SFは、1960年頃から始まります。優秀で個性的な才能が運命的に集まりました。
筆者はそれ以前の、まだSFという言葉さえなかった頃、明治、大正、昭和のいわば古典的SFを掘り起こす作業に携わるわけです。
この作業はとてつもなく大変だったといいます。
まず、どこを探せばよいのか。
そのような本を、或いは資料を見つけだすことがとても困難だったそうです。
それでも、根気よく古書店を片っ端から探し歩き、少しずつではあるが手元に集まってきました。
物によっては、目の飛び出るほどの高値がついているものも少なくありませんでした。
それでも、ナントカカントカ出版までこぎつけました。
それが本書です。
対象は明治期から大正、昭和の終戦あたり。そして時々、江戸期です。
「宇宙の統一」
そして、日本SF第一号について書かれています。
タイトルは「西征快心篇」
著者は「厳垣月州」
京都在住の儒学者
安政4年(1857年)頃に書かれた
とあります。
作者は1818年(江戸期)生まれで1872年(明治5年)に亡くなっています。
小説自体は短編で、漢文で書かれたものでした。
内容は架空戦争SF。
清国とインドを助けてイギリスと戦う、そしてイギリスに勝利し征服してしまう。
江戸期の鎖国時代にイギリスと戦うという発想が飛び抜けてSFです。
この作品以前にも、平賀源内や滝沢馬琴がSF的な作品を残しているそうですが「明治、大正につながるSF」という意味ではこの作品を、日本SF第一号として認定したいという作者の意見です。
いずれにしても、SF文学は欧米からの輸入だという固定観念を打ち壊すだけの作品が、僕らの祖先の手によって書かれていたことを知ることはとても重要なことです。
文学も絵画も音楽もその他諸々の事柄は、洋の東西を問わず、南北の様相に関わらず、この地球上に自然発生的に生まれるものだという、当たり前のことが改めて証明されたともいえます。
この視点はとても大切なことです。
この横田順彌先生も残念なことに、お亡くなりになられています。
1945年 佐賀県生まれ
1970年 作家デビュー
2019年 73歳没