「人間なんて結局は糞袋だ」
小松左京が対談か何かの時に口にした言葉です。
彼がこの境地にたどり着くまでには、どれほどのツラいことがあったのだろうか。
この言葉は、表現が強いので様々な受け止め方があるようです。
禅に由来する言葉らしいのですが、禅の言葉であれば、解釈も様々であって当然です。
僕はこの言葉に救われます。
人間ですから、生きる上で失敗や過ちを犯し、結果、自信をなくし、ズーンと落ち込んで、生きていく自信を無くすこともあります。
順風満帆の大海原ならそんな落ち込むこともないのですが、いろいろある訳です。
そんなとき「そんなに落ち込むなよ、自分を追い込むなよ。どうせみんな、勝ち組も負け組も、どんなに粋がってる奴だって、突き詰めれば糞袋が歩いているようなものだから。おんなじだよ」
僕はこの言葉に自分の立ち位置を再確認します。
「金歯は抜いたか」
小松左京のお子さんが亡くなって悲しんでいる時、星新一が小松左京に向かって言った言葉。
金歯を抜く。
昔は死者を埋葬する時に貴金属の金歯を予め抜き取り、墓を荒らされるのを防いだことからきています。
でも、小さな子が金歯などしているはずはない。
この言葉に、先輩で親友の星新一の優しさを感じ取ったといいます。
作家とは、そのような不幸さえも踏み台にして、命がけで書き続けていかなければならない。
星新一のこの言葉を、自分へのエール(激励)と受け取ったのだろう。
そして、場合によっては大きなキズを与えかねない言葉を投げかけた星新一に驚くとともに、この言葉を前向きな意味に捉えることのできる小松左京も凄い人だと思います。
普段からのお互いの結び付きの強さ故なのだろう。
小松左京は、コンピューター付きブルドーザーとの異名があります。
そのぐらいダイナミックに活動し、貪欲に情報を集め、その知識を基にSFという分野を生涯をとおして開拓しました。
1931年(昭和6年)大阪生まれ。
2011年(平成23年)、80歳で亡くなりました。
復活の日、さよならジュピター、首都喪失、虚無回廊…
ベストセラー「日本沈没」では、最新の科学理論と豊富なSF的アイデアで日本列島を海の底に沈めた男です。