「ようこそ地球さん」に収録された本作品。
未来の流刑地、火星に飛ばされた死刑囚が、ボタンを押せば水が一定量出てくる銀の玉を渡され、火星の廃墟を彷徨い生きていく話です。
そしてこの玉は、水が出てくるうちは生き延びられるが、無作為な回数がセットされていて、その時が来ると大爆発を起こし、死刑が執行されるというものです。
主人公はいつ爆発するか分からない死の恐怖に怯えながら、毎日毎日、生きるために玉のボタンを押し、水を手に入れ食事をしなければならない。
恐怖に震えながら、生と死の狭間で主人公が辿り着いた心の変化は…
星新一の奥様、香代子さんは、この作品を読むたびに涙が出るといいます。
「星はこんな悲しい作品を、ひとり夜中に、書斎にこもって書いていたんだと思うととても悲しくなる。」と。
大袈裟な感情描写もなく、事件も起こらず、淡々と進んでいく物語に、人間とは、生きるとは…
「目がさめたの。同じことじゃないの。」と呟く銀の玉…
他の作家ならこの題材で中編小説として書き上げるところを、星新一は、その本質を見抜いた鋭い目でショートショートに書き上げて提示します。
言葉が多く、何から何まで説明して、個人的解釈を拒むかのような昨今のポップソング的小説より、鋭く真実を見抜いた視線で書かれたショートショート。
無駄も飾りもないからこそ、読者それぞれに読後感があるのだと思います。
短歌や俳句を、言葉が短いからといって子供向けのジャンルだと決めつける大人は存在するだろうか。
星新一の残したショートショートの数々は、長編、中遍小説となんら遜色のない文学作品に違いありません。
僕たちが生きるということは、どういうことなのだろうか。誰しも寿命があり、いずれその時を迎えなければなりません。
元気で幸せな生活を過ごしていても先のことは分からない。
その門を曲がったところで事故に遭い終わりが訪れることもあります。
ただ、意識をしていないから怖くないだけです。
もし、明日12時ちょうどに死が訪れると知らされたら…
誰もそれを知らないから笑って過ごせる。