「純文学書下ろし特別作品」と銘打ったこの作品、筒井康隆の小説手法をありったけ詰め込んだ本格的SF作品です。
僕はこの作品こそ筒井康隆の現時点での最高傑作だと思っています。
「まずはコンパスが登場する。彼は気がくるっていた。針のつけ根がゆるんでいたので完全な円は描けなかったが自分ではそれを完全な円だと信じこんでいた…」と物語が始まります。
第一章は文房具
宇宙船の乗組員は、そのすべてが文房具であり、そしてみな少しどこか気が狂っている。
ところがここで、旧来の小説好きは脱落します。「なんで文房具なのだ」と文房具が動き話しだすという物語に感情移入できないらしい。
机の上のコンパスがおかしな円を描きながら、クルクル廻りだしたり、ホチキスが口からココココココココ
ココココココ
コ
コ
ココココココココココココ
と針を吐き出しながら卒倒したら、僕なんかもう嬉しくて嬉しくて。
僕はこの第一章が好きです。
ナンバーリング、雲形定規、画鋲など次々「なるほどな」という気の狂い様の描写が続きます。
無限に思える大宇宙の中を、宇宙船という狭く閉鎖された空間で、いつまでとも知らされず進み続ける日常に精神が壊されていく文房具たち。
第二章は鼬族十種
文房具たちの戦いの相手である流刑の星クォール星に君臨する鼬族の「歴史」です。
ここがかなり根気のいる章であり、ここで更に脱落者がでる。おもしろくないからだといいます。
おもしろくないと言えばおもしろくないかも知れないが、筒井康隆最盛期の力業で書き上げたイタチの歴史に圧倒されます。
世界史と日本史のパロディの形をとった鼬族の歴史、この章を読み進めなければ、第三章のおもしろさが分からないと作者から言われれば読み進めるしかありません。
第三章は神話
黙示録の世界、突然空から舞い降りてきた文房具と鼬族の戦い、というか混沌というか、入り混じった、様々な文学的手法が投じられ、筒井康隆が描き出す「神話」が描かれます。
とにかく読んでみないことには始まりません。
この作品を書き始めたのが40代半ばで、刊行されたのが50歳です。
作家としては一番勢いのある時ではなかろうか。
筒井康隆といえば、SF、スプラスティック、パロディとあらゆる小説手法を用いた実験的作品が特徴です。
本人曰く「今まで一度たりとも同じ手法で作品を書いたことがない。」
毎回が実験的小説の実践の場だということです。
この虚構船団は、その集大成の物凄い作品だと僕は思います。
ところが発表後の評価が大きく別れ、「問題作」になりました。
僕はこのような小説や音楽そして絵画の分野でも芸術全般に言えることだと思うのですが、傑作だからこそ問題作として賛否両論飛び交うのだし、なんの評価も話題もない作品は凡作であるはずです。
しかし、これには筒井康隆自身は不本意の極まりだったとみえ、その後の異例とも言える、著者本人による「虚構船団に対する批判的評論に対する」反論を繰り広げます。
また、「幻想文学」という書籍でも、インタビュー形式で取り上げられ、詳しく自己分析をしています。
その一つに「文学を面白がるにも訓練がいる」ということ。
これについては、また後日取り上げます。
最後に一つ。この作品をアニメで映画化できないものか。きっともっと分かりやすく、おもしろいはずです。