悪魔(あくま)

「ホテルから出てきた男女が、今後の計画などを話しあいながら電車通りに出てきたころ、男の意図を悟り、人ごみの中であるにもかかわらず絶叫することば」

「ぼく自身がこれをやられたのだから、まちがいはありません。」

筒井康隆著『欠陥大百科』の「悪魔」の項です。僕ではありません。念のため。

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でも、筒井作品では「悪魔」を題材にした作品は見かけないですね。

悪魔といえば、やはり星新一です。

ボッコちゃんに収録されている「鏡」という作品には悪魔の捕まえ方があります。

鏡と鏡を向かい合わせます。13日の金曜日零時零分ちょうどになると、鏡の奥に果てしなく続く鏡の廊下の向こうのその奥の遠い所から、鏡を飛び越えながら悪魔がやってきます。
しっぽの尖った、痩せていて、キューキューと泣く、頼りなさげな小さな黒い悪魔です。
その悪魔が向かい合わせの反対側の鏡に飛び移る瞬間にパッと捕まえるのです。

文庫版『ボッコちゃん収録』の「鏡」の挿絵より

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この星新一の最初の短編集には、他に「悪魔」という作品もあります。

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人間の欲とそのわがままをきいてくれる悪魔。人間の身勝手さ、浅はかさを悪魔との会話の中で浮き彫りにする。星新一のSFにはなくてならない題材でした。

星新一の作品の魅力は、複雑で込み入った人間関係を用意しなくても、街中を飛び回らなくても、狭い範囲の短い時間で、長編作家が膨大な枚数で書き上げる物語に負けないだけの感動を与えてくれるところにあります。

例えるなら、盆栽、活け花、短歌そして俳句みたいな。
奥深く解釈ができるその数々の作品に、星新一の独自の世界の完成形を僕はそこに見ます。