高井信著「ショートショートの世界」に沿って、ショートショートの定義に触れましたが、さらに一歩踏み込んで、日本のショートショートの歴史を辿ってみます。
日本に初めてショートショートを紹介したのは、1959年(昭和34年)、都筑道夫氏だそうです。
「ごく短い作品をアメリカではショート・ショートと呼んでいる。向こうの短編作家はこれが書けないと一人前とはいわない。しかし、傑作を書くのは難しく、短編を書くより技術的な苦労は多い…」
1957年10月、星新一がまさに超新星のように文学世界に姿を現しました。
同人誌「宇宙塵」に発表した「セキストラ」が宝石に転載され、江戸川乱歩に絶賛され作家デビュー。
とんとん拍子、SF作家星新一の誕生です。
そして、翌1958年1月、名作「ボッコちゃん」を書き上げ、内心で「これだ」と叫んだ。
「自己を発見したような気分であった。大げさな形容をすれば、能力を神から授かったという感じである」
(最相葉月著星新一1001話をつくった人より)
そして、処女作品集「人造美人(ボッコちゃん)」の初版が1961年(昭和36年)に刊行されています。
この年1961年は、
「人造美人」
「ようこそ地球さん」
「悪魔のいる天国」
の三冊もの星新一の単行本が刊行され、まさしく日本SF元年と言っても言い過ぎではない。記念すべき年です。
「ボッコちゃん」を読んでみればわかりますが、ショートショートのお手本のような作品です。
星新一はその始まりから、誰に教えてもらうこともなく「ショートショート」を書いていたのです。
これはアメリカから輸入されたものなどではなく「星新一オリジナル」であり、星新一はショートショートを書く作家ではなく、星新一が書いたものがショートショートであると言われる所以です。
そして、そこからショートショートブームが始まり、SF作家はみんなこぞってショートショートを書いていた時代が続きました。
それ以前にも、川端康成の「掌の小説」などという短い小説は存在しました。
でも、これがショートショートかというと、読んでみるとちょっと違うんです。
やはり、星新一から始まったというのが正しいように僕は思います。
星新一本人によると「たまたま短い小説を書いていました。それがある日、このような形式の小説をショートショートというんだよ。」と言われ「幸か不幸か私が日本におけるショートショート作家とされてしまった。」
という発言をしています。
つまり、はじめに星新一がいて、ショートショートがあとから追いかけてきた。
星新一という大きなカテゴリーの中にショートショートがある。というちょっとおかしな「日本独自のショートショート」ということになりはしないか。
だから、山口瞳氏が言っていたように、「ショートショートとは、星新一プラスSFまたは超現実的作風」という変な言い方になるのです。
何しろひとりの作家が、千編以上の、それも水準以上の優れた作品を書き上げ、没後27年、四半世紀が過ぎてもなお再版が続く星作品群。
このような経緯もあり、SF=ショートショートと誤解され、日本SFの第一世代はみんなショートショートを書かされていました。
お陰様で、優秀な作家の個性的なショートショート作品を沢山読むことができるのですから、これ以上の幸せなんかありません。