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登場する作家たち

2.5

SFという惑星を、星新一がパイロットとして発見した。小松左京がブルドーザーで地ならしをして新しい都市ができた。そこへスポーツカーで口笛を吹きながら筒井康隆が乗り込んできた…

これは石川喬司の作った比喩ですが、もちろんSF界の実際はこんな格好いいものではなかった。ただ「古事記(日本SF編)」としてのSF惑星の始まりとしては良くできた神話です。未来的で宇宙的で、ファンとして崇め奉るSF世界にはピッタリのイメージだと思います。

次は、ヨーロッパの宮廷になぞらえての筒井康隆の比喩です。
王様は誰か、これはミスターSF小松左京とするしかないだろう。容姿体格もぴったり。細かいことにこだわらないのもいい。王妃様はいないことにする。誰かに迷惑がかかるといけない。
王子は山田正紀、SF界のプリンスと呼ばれている。王女が新井素子。まだ幼いが国民には人気がある。
王を悩ませる長老会議の議長は星新一。王に無理難題を吹きかけるが、冗談か本気かわからないところが困る。
大司教が石川喬司魔女ではないかと噂される女官長が栗原薫祈祷師が山尾悠子占星術師は半村良
近衛隊長が豊田有恒国境守備隊長に田中光二公爵に荒巻義雄。王子の学友に橫田順彌。頑迷な歴戦の武将に眉村卓
王室科学院院長が石原藤夫。王室音楽院院長が野田昌宏。宮廷に居候する異国の王子に川又千秋
毒薬専門の典薬が手塚治虫。解剖好きな従医に真鍋博剣闘士が高千穂遥。塔に棲む悪魔が永井豪。首切り役人が平井和正
王宮の裏の森に棲む龍は光瀬龍。いつも宴席で酔っ払っている河野典生先王の幽霊に故・福島正実。道化はかんべむさし筒井康隆は悪宰相】とこんな感じです。
1985年に発売されたエッセイ集「玄笑地帯」に掲載されたのですが、この当時、代表作家はこのメンツ。少ない。

そんなこんなで、次々と魅力的な作品を著したSF作家たちを愛を込めて紹介していきます。
 

星新一

1926年(大正15年)東京生まれ。本名親一。
東京大学農学部卒。父は星製薬創業者星一。1951年父の急逝により星製薬会社の2代目社長に就任するが、悪化していた会社の経営紛争の末退陣。
心身ともに疲れ果てた星は、三島由紀夫も加入していた「日本空飛ぶ円盤研究会」に入会。この会報に「円盤を警戒せよ」などの文を寄せている。

風邪をひいた夜、レイ・ブラットベリの「火星年代記」を読み感動。作家の道に進む大きな出会いとなる。【レイ・ブラッドベリ
1957年、この研究会から同人誌「宇宙塵」の結成の話しが持ち上がり、真っ先に手を挙げたのは星であった。
そして同人誌第2号に小説「セキストラ」を発表。「火星年代記」を読んだ4ヶ月後のことです。

「セキストラ」に感動した大下宇陀児は江戸川乱歩にこれを紹介し「これは傑作だ。日本人がこういう作品を書いているということがわたしを驚かせた。このようなアイデアで世界連邦ができあがることがとても愉快だ」と言わしめました。【江戸川乱歩
そして江戸川乱歩主宰の「宝石」に転載され、瞬く間に作家デビューとなる。星新一30歳の秋であった。

戦後の日本におけるSF界は星新一のデビューにより幕を開けました。その後の活躍はめざましく、生涯に於いて1000編以上のショートショートを書き上げるという偉業を達成。
星新一の人となりがよくわかります。星新一の公式サイトをご覧ください。
星新一公式サイト寄せ書き(豊田有恒)

SFを書き続けSFにすべてをかけた星新一は、1997年(平成9年)入院先でなくなる。
享年71歳。

父   星一(星製薬創業者、星薬科大学設立)
祖父  小金井良清(学者学者)
祖母  小金井喜美子(歌人・翻訳者)
大伯父 森鷗外(医師、小説家)
全く以て、科学と文学の血筋のハイブリッドといえます。その先にSF作家星新一が生まれたのですから。

作品集
「きまぐれロボット」「午後の恐竜」「どんぐり民話館」「だれかさんの悪夢」「夢魔の標的」「ようこそ地球さん」「エヌ氏の遊園地」「悪魔のいる天国」「おせっかいな神々」「声の綱」「にぎやかな部屋」「ごたごた気流」「これからの出来事」「地球から来た男」等々
星新一公式サイト トップページ

 

筒井康隆

1934年(昭和9年)大阪府生まれ。本名同じ。
同志社大学卒。1960年「お助け」でデビュー。天才鬼才、SF界のプリンスと呼ばれていた筒井先生も今や日本文学界の重鎮、最後の文豪と言われ、現在までに10を越える文学賞を受賞しています。

このように書くと、順風満帆に作家の道を歩んできたようにみえますが、最初の頃はなかなか本も売れず、作品は書き直しを指示されるし、一時は東京のアパートを引き払って大阪に帰るところまで悩んだといいます。
この時、大阪に帰っていたならばその後の活躍はなかったかも知れません。

筒井氏の文学的功績の一つは、SFの枠にとらわれない実験小説の執筆にあります。
代表作として「虚人たち」「夢の木坂分岐点」「残像に口紅を」「朝のガスパール」などがあります。
筒井氏本人に言わせれば「執筆を続けてきた中で一度だって同じ手法の小説を書かなかった」
つまり全てが実験的小説であると言っていると同じ意味にも聞こえますが、とにかくすごい才能だと思います。

作品集
「にぎやかな未来」「ホンキー・トンク」「アフリカの爆弾」「母子像」「時をかける少女」「48億の妄想」「串刺し教授」「ジャズ小説」等々
ホリプロホリプロ公式サイト

 

小松左京

1931年(昭和6年)大阪府生まれ。本名小松実。
京都大学卒。ミスターSF。1962年「易仙逃里記」でデビュー。その豊富な知識量、そして行動力から「コンピューター付きブルドーザー」といわれていました。

1970年(昭和45年)に開催された大阪万博では、その当時、高度経済成長の真っ只中にあって、「バラ色の未来」などではない、未来に待ち受けているであろう公害はじめ諸問題に対し「人類の進歩と調和」を掲げ、万博の基本理念作成に関与した小松左京たちの先見性は見事だと今更ながら関心しました。

2011年(平成23年)パワフルに駆け抜けたその生涯を閉じる。
享年80歳。

作品集
「日本沈没」「日本アパッチ族」「復活の日」「果てしなき流れの果に」「地には平和を」「明日泥棒」「牛の首」「召集令状」等々
小松左京ライブラリー公式

 

橫田順彌

1945年(昭和20年)佐賀県生まれ。本名同じ。
法政大学卒。1970年宇宙通信「X計画」でデビュー。古典SFの研究者。

明治・大正・昭和の未だ本格SFの時代が訪れる遙か昔にあって、SF的作品を残した先輩たちがいました。その作品を発掘、研究した功労者です。

自身はハチャハチャSFという特殊な分野を開拓。ハチャハチャという言葉は小松左京氏が命名したといわれています。

2019年(平成31年)他界。
享年73歳

作品集
「天使の惑星」「日本SF古典こてん」「真夜中の標的」「世にも馬鹿げた物語」等々

 

新井素子

1960年(昭和35年)東京都生まれ。本名同じ。
立教大学卒。1977年「あたしの中の…」でデビュー。
高校2年生で作家デビューしたことは、当時文学界に衝撃をあたえ、「SF界のプリンセス」とも称されました。

その衝撃は「若さ」だけではなく、その文体にありました。ここに選考委員だった星新一も気づいたのだと思います。当時評論家によって「新口語文」と評価され、口語表現を文体に反映した形はとても斬新で新しい作家の登場だった。

デビューの切っ掛けとなった「奇想天外SF新人賞」佳作入選。
こ選考会はSF界では伝説となっています。
その選考の模様を一部掲載していますのでお読みください。[ほしのはじまりレビュー

これは後日談ですが、講談社に勤める父は東京大学農学部で星新一と同級生だったということが分かります。
世の中に時折耳にするこの「不思議な縁」というもの。自身の人生を考えるときに、とても重要な位置を占めているのではないかと思えるのですが、まだその真実は解き明かされていません。きっと、誰もがその縁(えにし)の糸の不思議で生かされているのではないのかな。

作品集
「ひとめあなたに」「チグリスとユーフラテス」「扉を開けて」「くますけと一緒に」等々

 

福島正実

1929年(昭和4年)樺太生まれ。
明治大学中退。初代SFマガジン編集長。SF作家、翻訳家
一方、自身も著作活動を続けつつ、SF研究書としては「SF入門」「SFのすべて」などがある。
当時、商業的に苦戦を強いられていた日本SFの基礎を確立し、多くのSF作家を世に輩出した功績は大きい。

1969年(昭和44年)、SFマガジン2月号に掲載された「覆面座談会」では、小松左京、筒井康隆など、当時、気鋭の作家たちを誹謗中傷ともとれる厳しい批評を行い、SF作家たちから激しい反発を招き、その責任をとりSFマガジン編集長を辞しています。
SFマガジン8月号に「それでは一応さようなら」と題し、次の言葉を残しました。
批評を嫌い、批評されたことを恨み、未練がましくあげつらう精神で、いったいなぜ、SFが書けるか。多少の批評をされたからというので、気落ちして書けなくなるような、そんな女々しい人間は、もともとものを書くべきではなかった。そんな女々しい作家は、消えてなくなればいいのです
SFを愛し、SFに生涯のすべてを捧げた福島の、愛するSF界への最後の言葉です。
【覆面座談会事件】

1976年(昭和51年)他界。
享年47歳

作品集
「未踏の時代」「就眠儀式」「出口なし」「百万の太陽」「超能力ゲーム」等々 

 

豊田有恒

1938年(昭和13年)群馬県生まれ。
武蔵大学卒、慶應義塾大学医学部除籍。1963年「火星で最後の…」でデビュー。
SF小説以外には、「スーパージェッター」「宇宙少年ソラン」「ジャングル大帝」「鉄腕アトム」などの作品の、脚本やシナリオなどアニメ制作にも数多く関わっている。
2023年(令和5年)他界。
享年85歳。

作品集
「倭の女王・卑弥呼」「遥かなり幻の星」「四丁目の決闘」「タイムスリップ大戦争」等々 

 

かんべむさし

1948年(昭和23年)兵庫県生まれ。本名阪上順。
関西学院大学卒。1974年(昭和49年)「決戦・日本シリーズ」でデビュー。

 

海野十三

1897年(明治30年)徳島県生まれ。本名佐野昌一。
ペンネームは(うんのじゅうざ)と読む。

早稲田大学理工科卒。逓信省電務局電気試験所勤務の傍ら小説を発表する。
1928年(昭和3年)探偵小説「電気風呂の怪事件」でデビュー。
ジャンルは、科学小説、推理小説、漫画家
1949年(昭和24年)他界。
享年51歳。

代表作
「蝿男」「火星兵団」「電気風呂の怪死事件」「千年後の世界」「火星魔」

  

田中光二

1941年(昭和16年)日本統治下の朝鮮生まれ。早稲田大学卒。
1974年「幻覚の地平線」でデビュー。

作品
「わが赴くは蒼き大地」「エデンの戦士」「オリンポスの黄昏」ほか

  

眉村卓

1934年(昭和9年)大阪府生まれ。本名眉村卓児。大阪大学卒。
1961年(昭和36年)「下級アイデアマン」でデビュー。
2019年(令和元年)逝去。享年85歳。

作品
「ねらわれた学園」「二次会のあと」「傾いた地平線」「妻に捧げた1778話」ほか

 

中村誠一

1947年(昭和22年)生まれ。東京都出身。国立音楽大学卒。
ジャズ・テナー・サクソフォン奏者(SF作家ではありません)
1969年から1972年まで第一期山下洋輔トリオで活動

1970年代から、筒井康隆、赤塚不二夫、タモリらと交友を深める。
「ハナモゲラ」の起源は、これらの友人たちとの遊びの中で思いついた芸で「初めて日本語を聞いた外国人の耳に聞こえる日本語のものまね」に起源しているといいます。
その「ハナモゲラ」の手法で書いた実験的短編小説が「幻の戦士鈴唐毛の馬慣れ」です。
幻の戦士鈴唐毛の馬慣れ

 

江戸川乱歩

江戸川 乱歩(えどがわ らんぽ)1894年(明治27年)三重県生まれ。
早稲田大学卒。
推理作家、怪奇・恐怖小説家、アンソロジスト。

1923年(大正12年)「二銭銅貨」で作家デビュー。

日本推理作家協会初代理事長。ペンネームの由来は、アメリカの小説家のエドガー・アラン・ポーから。本名は平井 太郎

大正から昭和期にかけて活躍し、主に推理小説を得意とした。また、大東亜戦争後は推理小説分野を中心に評論家や研究家、編集者としても活躍した。

欧米の探偵小説に強い影響を受け、本格探偵小説を志す一方で「心理試験「赤い部屋」といった変格とみなせるような作品も書き、黎明期の日本探偵小説界に大きな足跡を残した。「人間椅子」「鏡地獄」に代表されるようなフェティシズムや怪奇小説の部類も初期から執筆しており、サディズムやグロテスク、残虐趣味などの要素を含んだ通俗探偵小説も、昭和初期から一般大衆に歓迎された。

新人発掘にも熱心で、星新一、筒井康隆、高木彬光、大藪春彦など、乱歩に才能を見出された作家は数多く、その後の活躍もめざましい。

乱歩の寄付で創設された江戸川乱歩賞が推理作家の登竜門となるなど、後世にも大きな影響を与えた。
1965年(昭和40年)逝去
享年70歳

作品はたくさんありますが、有名な「明智小五郎」「少年探偵団」「怪人二十面相」などが登場する子供向けの作品を次に掲げます。

星新一氏はそのエッセイで、子供の頃これらのシリーズを何度も何度も読み返し、小説に出てくる舞台が自宅近くだったこともあり、なおさら真に迫る恐怖を感じたと書き残しています。

「怪人二十面相」「妖怪博士」「青銅の魔人」「透明怪人」「怪奇四十面相」「改訂の魔術師」ほか。

 

大下宇陀児

大下 宇陀児(おおした うだる)1896年(明治29年)長野県生まれ。
九州帝国大学卒。
探偵小説作家。本名、木下龍夫。
1925年(大正14年)探偵小説『金口の巻煙草』で作家デビュー。

探偵小説だけでなくSF小説にも関心を示し、自らもSF作品を執筆しつつ、星新一が同人誌宇宙塵に発表した「セキストラ」に感動し、江戸川乱歩に紹介、星新一の文壇デビューに一役買ったことは有名な逸話です。

1966年(昭和41年)逝去。享年69歳。

作品
「蛭川博士」「宙に浮く首」「恐怖の歯型」「石の下の記録」「魔人」「奇蹟の処女」「狂楽師」「殺人技師」

 

レイ・ブラッドベリ

レイ・ダグラス・ブラッドベリ
1920年(大正9年)アメリカの小説家、詩人。
SF、ホラー、幻想文学、ミステリー。
2012年(平成24年)逝去。
享年91歳。

作品
火星年代記」「華氏451度」「ハロウィーンがやってきた」「何かが道をやってくる」「死ぬときはひとりぼっち」

 

アイザック・アシモフ

1920年(大正9年)ソ連に生まれ、3歳の時にアメリカに移住。
ボストン大学教授、生化学者、SF作家、文芸評論、随筆。
1992年逝去
享年72歳
大学で教鞭をとる傍らSFなど作品の執筆。
アーサー・C・クラーク、ロバート・A・ハインラインとで「三大SF作家」と呼ばれる
受賞(ヒューゴー賞7回、ネビュラ賞2回、ローカス賞4回)

作品
「われはロボット」「宇宙気流」「宇宙の小石」「鋼鉄都市」ほか

 

フレドリック・ブラウン

1906年(明治39年)アメリカ生まれ。
小説家、SF作家、推理作家
1972年(昭和47年)逝去。
享年65歳。

日本のSF作家にも大きな影響を与える。
ショートショート作品も多数執筆しています。
星新一は「さあ、気ちがいになりなさい」「フレドリック・ブラウン傑作選」の翻訳をしています。

作品
「闘技場」「まっ白な嘘」「天の光はすべて星」ほか

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