著者名 福島正実編
出版年 1977年(昭和52年)
発行 角川書店
ジャンル SFアンソロジー
収録は21作品。
編者である福島正実を加えて21人のSF作家の作品を集めています。
「分茶離迦」 福島正実
「壁の穴」 星新一
「易仙逃里記」 小松左京
「ブルドッグ」 筒井康隆
「完全映画」 安部公房
その他
日本SFがまだ若かった頃、日本SF作品の撰集が数多く出ていました。
勿論、今でも趣向を凝らした撰集は出ていますが、この頃は、とにかくSFを一般的な文学にしたい。作家の認知度を高めたい。このSFという新しい形式の文学を知って欲しい。
そのような思いが強かったのではないだろうか。
帯にある写真を見てください。そうそうたる顔ぶれが並んでいます。
編者の福島正実氏は、1976年(昭和51年)に47歳で亡くなりました。この撰集が出版される前の年です。
彼は、初代SFマガジン編集長として日本SF黎明期にあって、SFという新しい文学を日本に根付かせるために人生をかけた方です。
「SFはこれまでの文学にはない、あらゆる自由を持った小説形式です。未来を、宇宙を、他の世界を描くばかりではない。その中に在る人間を考えてみるのがSFです。そうした未来や宇宙空間や他の世界に人間を投影するのがSFだといったほうが、いいかもしれません…」
「人物を描く」というより「人間を描く」という感じだろうか。まだこの頃は新しい文学「SF」を大衆に解き、理解を求め広めていく「布教活動」の時期でした。優れた作品を世に出すために、若手作家を発掘し教育する役目も担っていたようです。
SFのために猛烈な勢いで時代を駆け、47歳という若さで病に倒れました。
話は変わりますが、福島正実編集長とSF作家の間にはとても深く、複雑な思いがあったようです。
SFマガジン1969年2月号に掲載された「覆面座談会」が大きな切っ掛けとなり、SFマガジン編集長を辞任するなど、福島氏とSF作家たちの間には遺恨が残りました。
本著にはSF作家から福島編集長への追悼文が掲載されています。
そのひとり筒井康隆氏は次のような追悼文を寄せています。
「福島正実氏に対する複雑な感情がまだそのままである。これは整理するとか整理できないとかいった種類のものではない…SFに対する考え方まで違っていた…」
追悼文とは思えない内容です。
福島氏を認めていた反面、わかり合えなかった寂しさも大きかったのだろう。
福島氏は、日本SFを世界レベルにしたい。商業的にも成功させたいという強い思いから、編集長として、SFマガジンに掲載する作品には厳しい批評や書き直しを強いて、SF作家たちからは強い反感を買っていました。
今の日本SFの盛況をみて、彼はどのように評するのだろうか。



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