著者名 星新一
出版年 1966年(昭和41年)
発行 新潮社
ジャンル ショートショート集
収録作品31編
「けちな願い」「人質」「波状攻撃」「あこがれの朝」「殺し屋ですのよ」「うらめしや」他
本書「エヌ氏の遊園地」には、エヌ氏を主人公とした物語がいくつかあります。
だからと言って、本書は「エヌ氏」という同一人物の主人公が事件に巻き込まれる、いわゆるシリーズものの一冊に見えますが、そうではありません。
「日本人の名前には、その名を聞いただけで、人物像や風貌、職業までが思い浮かんでしまうことがある」とは星新一の言葉ですが、例えば「与太郎」「桃太郎」「花子」「五右衛門」…
作品を書くにあたり、名前などから人物像や社会背景などが色づけされるのを嫌ってのことらしい。
さらに文章に溶け込んで「目立たない文字」「目立たない音」で選んだ際、「エヌ氏」が最も文章に馴染んだためらしい。
星新一が常日頃言っていたのは「寓話作家と呼ばれるのが一番うれしい」
時代や世界が変わっても、長い年月、読み続けられる作品を世に遺したい。
その気持ちの表れのひとつが、登場人物の記号化にあったのかもしれません。
登場人物は誰でもなく、もしかしたら自分だし、あなただし、日本人であり、地球人でもあったりします。
そこに普遍性が存在してこその寓話ですから、主人公を記号化することが、その第一の作業だったのかもしれません。
星新一の作品には、日本人の漢字の名前の主人公ももちろんいます。
特に、数は少ないですが長編小説には、普通に名前がついています。
初期長編で唯一の風俗小説「気まぐれ指数」は、東京タワーが建設され町並みが大きく変わってきたころの物語。1960年前後の話だろう。
主人公は黒田一郎、その他登場人物が副島須美子、佐枝子、吉蔵。
この吉蔵は植木職人、「あっしは65歳…」と言っており、初老の職人という設定が、名前や話し方からもうかがい知ることができます。その他の登場人物にしても名前から時代が見えてきます。
この小説は「風俗小説」という位置づけなのでこれで良いのだろうが、「寓話」だとしたらふさわしくないですね。
そのように、人物設定は小説の大切な部分であり、寓話であれば、登場人物の人生や性格がイメージできてしまうのは良くない。だから「エヌ氏」なのだろう。



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