凶夢など30

星新一がショートショート1001編を達成するのが1983年です。その前年に発行されたのが本書ですが、作風がとても若返っているのに驚かされました。氏の作品のなかでも特にこの本は僕のお気に入りで、何度も繰り返し読んだ一冊です。

1982年(昭和57年)発行

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星新一氏の作品も後期になると、民話や寓話と言える作風が増えてきました。本人によると、オチをつけるという作風に飽きてきたと言い、小説よりも長く広く読み継がれる民話や寓話を目指した作風が増えてきた時期でした。初期作品と比べるとパンチ力に欠け、正直なところ首をひねるような読後感の作品も目立ちました。その頃の作品でしたからこの作品集はとても新鮮でした。

小説家、音楽家、画家、陶芸家達は、一つの境地に達したら、そこに留まらずに次の極みを目指していく。そして新たな試みにつまづくこともあると思います。それでも前に進むのが「芸術家」です。
作品が売れることを目標に前に進むことを忘れてしまえば、それはもはや芸術家ではありません。芸能界でも、半端な歌手がアーティストと自称しますが「お前が?」と言いたくなります。

いずれにしてもこの作品集以降、急速に作品の質的変化が顕著になります。一度読んだだけでは理解できない作品が多い後期の3作品集。「これからの出来事」「どんぐり民話館」「つねならぬ話」

特に、「つねならぬ話」は極めつけです。もう一度読み直さなけりゃならないし、まだまだ新境地への道半ばの作品だったようにも思えます。もっともっと作品を書きを続けることができたなら、とは今更ですが。

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