この界隈では有名な迷言の数々をご紹介いたします。
そして、必要ないけど少し僕なりに解説します。
なにが面白いのか分からない人には分からない世界観です…
①命短し襷に長し…星
👉「命短し恋せよ乙女」+「帯に短し襷に長し」の造語です。
人間の命は長いようで短いものだ。光陰矢のごとし。ノンビリ過ごしていてはあっという間に年老いてしまう。と言ったって、まぁ、襷(タスキ)よりは長いからそこまで慌てることはない。安心しなさい。
②弘法も木から落ちる…星
👉「弘法も筆の誤り」+「猿も木から落ちる」の造語です。
弘法とはご存知のとおり、弘法大師(空海)のことで、空海はとても字が上手かったのです。
そして、猿は木登りが得意です。
それぞれ自分の得意分野がある。そこをわきまえず木に登ったりすれば、あの空海でさえ木から落ちたりします。猿じゃないからね。
③点棒だと思うから腹が立つけど、金だと思ったら腹は立たない…星
👉SF仲間は、よくあまり上手くないマージャンを馬鹿話をしながらやっていたそうで、そんなとき負けが嵩んだ星が悔しさ紛れに発した言葉です。
④庇を借りて母屋を乗っ取ってやる…不詳
👉迫害されていたSF作家の心意気です。がんばれ!
⑤一姫二太郎三なすび…筒井
👉「一姫二太郎」+「一富士、二鷹、三茄」の造語です。
出産に関する縁起の良いことの例えと、正月の初夢ベスト3です。
一番目に生まれるのは「女の子」が良い。手がかからず育てやすいから。
二番目は「男の子」。家の跡取りですから、甘やかして甘やかしてとことん自分勝手に育てます。面倒はしっかり者の「長女」が見てくれます。
三番目はとにかく元気ならよい。どうせ養子に出すか、集団就職で東京に移り住むんだから。
家を出れば食い扶持も1人分浮く。だからなんでもよい。「ナス」でもなんでもよい。漬物にしても、油で炒めてもとてもおいしい。夏の栄養はこれだけでよい。
⑥飼い犬に手を噛まれるという話はよくあることだが、飼い犬のほうが、飼い主に尻を噛みつかれたようなものだな…星
👉SFマガジン(昭和44年)誌上で行われた『覆面座談会』での有名な事件。
福島正実編集長はじめ、参加した人たちが、仲間のSF作家を次々とほぼ全員を酷評したことをキッカケに、作家との関係は最悪となり、編集長を辞任することとなった事件です。
その時に発した星新一の言葉です。
言い得て妙とはこのことです。
因みにこの座談会で星新一のみが褒められていたといいます。
このジョークで怒り心頭の作家たちの心がやや収まったといいます。
⑦所長の『はらこ つとむ』(原子力)さんに会わせてください…星
👉SF作家クラブの旅行で訪れた東海村原子力研究所で、入口の守衛をからかって言った言葉です。
守衛は「はらこ つとむ?」「所長はそんな名前じゃありません」
この冗談は守衛には通じなかったそうですが、星新一はお構いなしで非常識なことをズバズバ言います。
⑧未来はもはや過去のものである…星
👉バラ色の未来論がブームの頃、そんなインタビューが度々あり、とうとう嫌気が差して発した言葉です。
「未来論」はSFの大きなテーマの一つです。
日本SFの黎明期、世は高度成長期。科学的な進歩で人々の暮らしは大きく変化しました。
家事家電は主婦の仕事の手助けを行い、朝4時ごろからの炊事、洗濯の負担をなくし、ボタン一つで何でも用が済みます。
余った時間はレジャーへ。その頃からサラリーマンの給料も増え、休日にはマイカーで家族旅行や、行楽地へ。日本人みんなが浮かれていた時代にあって、天の邪鬼の星新一が発した言葉です。
確かにその浮かれた世相の闇の部分には、公害問題、薬害問題、教育問題、若者の自殺など、人々の心の奥底の闇がしだいに広がりだした時代でもあります。
そう「バラ色の未来なんてもう、過去のものだよ」
⑨涙隠して尻隠さず…星
👉「頭かくして尻隠さず」のパロディーで「涙かくして尻隠さず」という造語です。
ディズニー映画のアニメーションで良くあるシーン。ドナルド・ダックが大きなベッドの大きな枕に頭を包みこんでもお尻は丸見えの状態にある。これがオリジナルであるが、星新一はその豊富な知識を頭の中でドバーッとひっくり返して訳の分からない、でも抱腹絶倒のおかしな言葉を合成してしまう。
「涙かくして尻隠さず」。なんてオモシロい。でも何がオモシロいんだ。
⑩狂気の沙汰も金次第…筒井
👉「地獄の沙汰も金次第」と「狂気の沙汰ではない」がオリジナルです。
筒井康隆らしいと言えば筒井康隆らしい。転んではいないけど、転んでもただでは起きない筒井康隆は、エッセイ集「狂気の沙汰も金次第」のタイトルに使用しました。
⑪そこのけ山の手電車が通る…不詳
👉「雀の子そこのけそこのけ御馬が通る」小林一茶の俳句です。
「そこのけ山の手電車が通る」…電車に轢かれたくないならそこを御退きなさい。という意味かな。そのままだけど、季語はどこにある?
⑫親子三人猫いらず…不詳
👉「家族水入らず」+「猫いらず」の造語かな。
「親子三人猫いらず」…ちょっとこわい。
⑬暑さ寒さも胃癌まで…不詳
👉「暑さ寒さも彼岸まで」
「暑さ寒さも胃癌まで」…確かにその日を越えたらこの世におらぬ。
⑭雀百までわしゃ九十九まで…不詳
👉「雀百まで踊り忘れず」+「お前百までわしゃ九十九まで」の造語です。
「雀百までわしゃ九十九まで」…ホントに、そこまで踊って入れたら本望だ。
でもよくよく考えれば、そんなに長生きして本当に幸せだろうか。
人は独りでは生きてゆけない。高齢になり誰かの世話になる。それが子供たちだったら、申し訳ないと思う歳になりました。子供たちの生活もある。世界一の長寿者インタビューを見ると、面倒見ているのは年老いた孫娘だったりします。
筒井康隆ご夫妻は、ふたり仲良く老人ホームに入られたそうです。いつも一緒にいたいからと、話されていたそうです。
⑮仏の顔も三度笠…不詳
👉「仏の顔も三度まで」+「三度笠」の造語です。
昔話に、六地蔵に雪が積もっては寒かろうと、三度笠を被せてあげて良いことが起こった、などというものもありました。「日本昔ばなし」のほのぼのさが懐かしい。
これ以上の解説は要らないね。SFがまだまだ日本に根付かず、商業的にも苦戦を強いられていた当時、若きSF作家たちは身を寄せ合って、このようなバカ話をしながら夢に向かっていたのだろう。



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