
残像に口紅を 筒井康隆 1989年発行 中央公論社

筒井康隆50代半ばに書かれた実験的小説です。
元来、文字で表現する小説。その設定を根本から揺るがす「文字が徐々に消えていく小説世界の中で物語は進行する」まず最初に世界から「あ」が消える。つまりこの小説の記述の中で「あ」のつく言葉は一度も登場しない。明日、ありがとう、愛、間、あーなんてこった…

想像するだけでけっこう辛い。三部構成の長編小説。いったいどうやって結末まで物語を綴るのか。著者はワープロの消えた文字のキーに画鋲を貼り付け押下できないようにして書き進めた。書き上げた後、胃には3個の穴があいていたと何かで読んだ覚えがあります。正気の沙汰ではない。
小説家の主人公は本書の中で「小説とは、何をどのように書いてもよい文学ジャンルなのだから…そもそも他のジャンル形式の不自由さから逃れて自由になったのが小説なのだから…」とつぶやいています。そんなことを主人公に言わせている著者は、とんでもない規制、足かせを自らに課したなかで小説を書き進めることを決めたのです。そんなとんでもない前代未聞の小説です。ぜひとも読む体力のある若い方に読んでいただきたい傑作です。
※他の不自由な形式の文学とは、例えば短歌や評論、自由詩その他諸々のジャンルのものを指すのだろう。

ほしのはじまり 新井素子編 平成19年初版 新潮社

新井素子選りすぐりの50編。
星新一1000編以上の作品群から選びに選び抜いたこだわりの一冊であり、星新一ショートショートの入門書としても楽しめ、星新一作品の魅力がぎっしり詰まっています。小学生の時に子供向けにまとめられた作品集として出会った星新一ではなく、大人の星新一がそこにはいます。
そして、その先には950編以上の膨大な作品群が待っています。

マイ国家 星新一著 昭和51年初版 新潮文庫

自分の家、マイホームをマイ国家として独立宣言した男。そこに訪れた銀行の外交員が、密入国者として捕らわれ、不法入国とスパイ活動の容疑で死刑の判決を下され味わう恐怖の数々。そして国家とは一体何であるのかを考えさせられる表題作「マイ国家」をはじめ、平凡な日常に潜む隣り合わせの恐怖を描いた31編のショートショート集です。単行本初版は昭和43年、今から57年前の作品集とは思えない星新一40代の充実期に上梓された傑作です。

にぎやかな未来 筒井康隆著 昭和47年初版 角川文庫

筒井康隆のデビュー作「お助け」、断筆宣言の発端となった話題作「無人警察」が掲載されています。初期作品集だけあって、内容はバラエティーに富み、ドタバタSF、ナンセンスSF、特有の執拗に纏わり付く残酷な恐怖、抱腹絶倒のギャグ、天才、鬼才・筒井康隆のビッグバン、原点を味わえる一冊です。
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