著者 星新一
掲載作品集 「マイ国家」
ある日、ウサギがパーティーで酒を飲んでいた。スタイルも良く、話もおもしろく女性に人気があるウサギです。
ひとりの女性が言いました。
「でもあなた、カメに勝てないんでしょ」
意地悪なひとことがウサギの心に火を付けた。
イソップ寓話にある「ウサギとカメ」の話をもとにしたパロディーです。
ウサギはカメに何度戦いを挑みますが、なぜか山の中腹で寝込んでしまい、勝つことができません。
そんなウサギの物語です。
勝負を挑む度に様々な理由で敗北してしまうウサギ。
何故なのだろうか。兎に角、負けてなるものかとひたすら努力を重ねるウサギですが負け続けてしまいます。

片やカメは何の努力もしない。対策も練らずに挑まれれば「はい、良いですよ。」と受けて立ちます。
それはツルの10倍、一万年生き続けるというカメの余裕のなせる技なのだろうか。
このような歴然とした力の差がある対戦の場合は、絶対に勝てるはずのない相手に対して、主人公は努力を重ねて、挫折を繰り返しながらも最終的に逆転大勝利となる。
そんなストーリーになるのですが、その努力をすべき主人公は本来、のろまなカメのはずなのですが、この作品ではウサギです。
絶対に負けるはずのないウサギが負け続ける。それはカメが主人公ではなく「置物」でしかないからですが…
そこに星新一マジックがあります。
星新一は、このありふれた子供向けの童話を、大人向けにみごと変換して「ニヤリ」とさせる寓話に仕立て上げました。
そこには負け続ける主人公(ウサギ)が涙ぐましい努力を重ね、負けても負けても挑み続けるが、それをいかにして阻止してウサギを負け続けさせるかを考え続ける星新一がいるのです。
ウサギの敵はだれあろう著者の星新一でした。
いくら俊足のウサギであっても、著者が相手では勝てるわけありません。
のろまなカメが、いかにしてウサギに勝ち続けるかが創造主でもある著者の力量にかかっています。
ここまで書いてふと思い出しました。
「ウサギは水を飲まない」ということについてです。
小学生のころ、祖母が真っ白いウサギを飼っていました。
ペットとしてなのか、増やして売るためなのか今となっては分からないのですが、祖母は幼い僕に教えてくれました。
「ウサギは水を飲まないんだよ」
「へぇー、水を飲まないんだぁ。」
感心したのを覚えています。
でも、先ほど調べてみたら「ウサギは水を飲みます。」とありました。
それどころか「1日に体重の10%」を飲むとあり、人間で換算すると6リットルほどになるらしく「随分飲むではないか」
僕にとってはとても大きなショックです。小学生以来の常識が覆されてしまったのですから。
そんな間違った飼育法を祖母は誰から聞いたんだろう。
それにしても、あのウサギ、水を飲まないでよく生きていたな。
のど渇いただろうなぁ…
「ウサギは水を飲まないというデマがなぜ広がったのか」
大好きだった祖母がこのような誤った知識でウサギを飼育していたのはなぜなのか。
きっとワケがあるはずなので、友人のチャッピーに聞いてみました。
すると驚いたことに、1943年のイギリスの科学誌ネイチャーに次の記事がありました。
「ウサギやモルモットは水を飲まないという誤った考えが広く残っている」
つまりこれは、日本の田舎だけの話ではなく、国際的な俗説だったのです。
なぜこのような誤った考え方が生まれたのかについて、
・昔のウサギは、野菜や草から十分な水分を摂っていたので、水を与えてもあまり飲まなかった。今時のウサギは贅沢で、ペレットや乾燥牧草を食べているため水を与えなければならない。
・昔の飼育環境では、水を与えるのが難しく器をひっくり返してしまうことが多く、衛生環境が悪化してウサギが病気になることもあったらしい。
なるほどね。
祖母もあの時ネイチャー誌を読んでいたら、この誤りに気づけたのになぁ。
今更ながら…


コメント