PR

【宇宙の声】 星新一/ なぜ古びることなく 若々しい作品のまま 特に星新一作品はSF的時間超越装置の箱に置かれているような…

著者名  星新一

出版年  2024年(令和6年)

発行   講談社

ジャンル 中編SF

 

「100分間で楽しむ名作小説」というシリーズで発行された文庫本。

収録は「宇宙の声」「包み」の2作品。

「宇宙の声」は、昭和44年毎日新聞社から同名の単行本として出版された、中編ジュブナイル集に収録された表題作。

「包み」は、昭和56年角川書店が出版した単行本「地球から来た男」に収録されました。

どちらも随分古い作品です。

星作品の大きな特徴の一つに「古びない」と言う点がありますが、これは何に起因するのだろうか。

晩年、自身の作品に筆を加え、古くなった表現を新たな言葉に置き換えるという気の遠くなる作業を続けていたことは有名な話ですが、そのために作品が古びないということもあると思いますが、それだけだろうか。

星新一にとってSFは、最新科学を使って予測できる未来社会をできるだけリアルに描こうなどとはしていません。

星新一が描いてきたのは人間です。

人間の愚かさ、欲望、権力欲の行き着く先を作品にしました。

その作品の舞台が,未来であったり武家社会であったり、宇宙であったり、並行世界であったり、ファーストコンタクトであったり…とにかく場所を変え、品を変え、あの手この手が豊富に用意されているのがSFです。

その設定が、本格時代小説とは全然違っていても、読者にとってそんな些細なことは気にならず、見事に人間を描ききった作品世界に感動するのです。

「殿様は目覚める。朝は6時。夏だったら…」(殿さまの日)

「そのつぎの会議の時、人事担当の家老がこんなことを言いはじめた」(江戸から来た男)

とこんなですから。

これじゃ時代考察もなにも、既に現代ではないか。これじゃ古びようがない。

作品発表時から決してリアルな社会設定をしていなません。

また、ショートショートの大きな魅力のひとつに「意外な結末」があります。

この意外な結末に向け、作者は、読者に気づかれないよう丁寧に世界を構築しています。そして、最後の結末であっと言わせ、どんでん返しに目を丸くします。

読者は、その意外な結末に心をつかまれ、それぞれの読後感に、その余韻に浸ります。

それこそが星新一作品の魅力であり、寓話的な一面であり、作者本人が言うところの本格的SF作品のなせる技でもあります。

最後にショートショートという短い小説故に、人物は記号化され、年齢、職業、歩んできた人生、家族構成、そして名前まで、必要最小限にとどまり、結果としてどんな人物なのかではなく、「人間」としての本質が浮き彫りになりました。

もうそこには、時代という時間の波に流されることのない「普遍的空間」だけが存在しています。

星新一の到達した世界は、SF小説の大きなテーマである「時間」さえも解き放たれた、唯一無二の小説といえます。

80年代の名作映画「Back to the Future」が、タイムマシーンを駆使して時間を自由に飛び越えるというSF作品でありながら、結局は時間の波に翻弄されっぱなしのストーリーであることを思えば、星新一の諸作品は時間を完全にその掌に包み込んでしまったともいえます。

  

コメント

タイトルとURLをコピーしました